AEVE ENDING
「僕がバルコニーに出ていたら、橘はなにもできないね」
馬鹿にするネタが出来たとばかりにやってきた雲雀のそんな一言。
「…それはあんたも同じじゃん」
言ってみて気付く。
考えてみれば一日一日を一緒に過ごすのだ。
プライベートな写真を撮りまくって、勿論盗み撮りで、女生徒に売りつければ、間違いなくバカ売れである。
(…小遣いタンマリ)
ニヤリ。
倫子の脳内は、銭稼ぎ一色に染まった。
(マイナスのマイナスがプラスになってプラスが二乗に…!)
雲雀との生活なんてきっと反吐が出るものに違いないが、自分に有利な点ならたくさんあるようだ。
幸い打たれ強さなら自信があるし、毒舌にもそう簡単にくたばるような繊細な根性は持ち合わせていない。
「―――浅ましいのは大変結構だけれど、もしそれを実行した際には僕が直々に君の喉を咬み切ってあげる」
口角が釣り上がる微笑。
やんわりと甘い声で吐かれたのは殺人予告。
その高圧的な態度にウンザリする。
「ウザ。…ぅ、がっ!ぃ、ぎ!ちょ!痛!」
ぼそりと吐いた本音の報復に、さも今から殺ろうと言わんばかりに首に五指をまわされた。
長く細い、女のような指先をしているくせに、まるで鋼鉄のようにびくともしない。
この華奢な体の一体どこに、こんな馬鹿力が隠れているのか。
「口には気を付けて」
喉仏を掌で圧迫され、倫子は忠告も聞けずただひたすらもがくしかない。
「し、るか…!!」
苦しいながらも果敢に中指を立てたら、首に回る指に更に力が籠もった。
今にも細い爪が皮膚を食い破るような強さ―――。
(いちいち本気かよ…!)
酸欠で鼻水が出てきた。
霞みがちな目で、目の前のサディストを精一杯睨みつける。
白目を剥いていたかもしれない。
「どんな相手を殺す時でも全力で行うのが、僕のポリシーなんだ」
この優雅な顔の一体どこに、そんな淀みない残虐性を隠しているのか。
『痛めつけられたこともない坊ちゃんを殺したって、なんの得にもならないのに』
誰の言葉だったか。
今や思い出したくない。
「マジで、あんた、嫌い」
睨み付けた視線をそのまま。
細い息のなか吐き出すと、淡々と見返していた玲瓏な眼が少しだけ見開かれた。
負け犬の遠吠えだったが、効果はあったらしい。