AEVE ENDING






「…橘」


グシャリ。

ハ、と息を飲んだ時には、掴んでいた筈の桐生の顔は無惨にも床にめり込んでいた。

重みをなくした左手に視線を落とし、暫し考え、そして真横に影を落とす人物に顔を上げる。

キラキラとステンドグラスに透ける肌に、普段は決して見慣れない傷がいくつか。

真っ暗闇の目玉は相変わらず無垢で冷酷で、揺るがない。



「…、」


名を、呼ぼうとして、舌が痺れたように動かなかった。



『―――知ってたよ』


私の罪を。


『その体の傷の理由も、僕を蔑視する由縁も、すべて』


私の、あの姿も、全て?

全身から、冷や汗が吹き出した。


(知られた、…全部?)


心臓が不規則に動き出す。

握った拳には嫌な汗が溜まり、爪は肉に喰い込んでいた。

(あの、醜い姿まで?)

雲雀の視線から逃れるように、ゆっくりと桐生から退く。
ぼんやりとした視線を巡らせれば、未だ気絶したままの双子と、それから。


(…二度も、殺した)


私の罪である、憐れな男が。




『いつから、そんな化物になっちゃったの、倫子』




全身から、血の気が引いてゆく。

眼球はきちんと機能している筈なのに、なにも見えない。


―――真っ暗だ。





真っ暗。

なにも、見たくない。




(…肉塊になった私を、雲雀は、)


畏れた、だろうか。


『化物』、と。






「―――…っ、」

声なき声で、悲鳴を上げた。

雲雀はただ、倫子の考えを見透かすように視線を定めたまま。

波に、足元を掬われる。



(いやだ、いやだ、いやだ)


あたまが、おかしく、なりそう。







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