AEVE ENDING






「どこかに引っ掻けたの?」

見覚えのある傷口に、妙に喉が乾く。

それはじわじわと私を剥き出しにして、傷みつけるように。



「いえ、たまにあるんです」

ぺろり。
なんでもないことのように言い、傷口を舐めた真鶸に違和感。

砂浜を一望できる大きな砂丘の上で、感じる筈もない噎せるほどの血臭を嗅いだ気がした。



「…たまに、こんな風になるってこと?」

声が震えたのは、恐怖か、或いは、願いか。


「はい。桐生先生の治療を受け始めた頃からなんですが、慣れっこなんで大丈夫ですよ!」



―――あぁ、かみよ。





『第二の修羅は、既に造られておる』


―――ほら、力に耐えられなくて体が悲鳴を上げるんだ。


『貴様にはわかるまい、神を造り出す悦びなど』


皮膚を突き破って、罪が芽吹くの。

まるで胎内から植物の芽が湧き上がるように、裂けていっちゃうんだ。



「先生は、アダムとして覚醒したばかりだから、まだ核に体がついていかないのだろう、と」


無邪気な顔をして、そんなまさか―――。


『お前が知らぬだけで、鏡に映したようにそっくりの神が産まれておるのよ』


誰か、私を、殺して。


『お前のようななり損ないとは違う、正真証明の神が』






「―――橘」

びくり。

両肩が自分でも違和感を感じるほど跳ねた。

真鶸がそちらを見る。


にいさま、みちこさんが。



「…橘?」

掛けられた声に、声色に、その主を、振り向けない。



『また、繰り返すのか』

『幼い子供にあんな酷いことを、私と同じ目に、遭わせるのか…!』

西の島で憤慨したのは確かに私であったのに。

何故、あの言葉を忘れていたのか。



(真鶸、真鶸、まひわ…)

揺れる黒髪。

歪みひとつない、白銀の皮膚。

綺麗な、目。

けれど私と、鏡を合わせたように、同じ。




―――息が、できない。









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