AEVE ENDING






「…嫌なら、噛みついてみたら」



―――ぐつり。

喉を鷲掴みにして、そこを支点に立ち上がらせる。

そのままぶらりと揺れた肢体を壁に押し付けて、抵抗すら飲み込むように、口付けた。


がぽり。

微かに水を含んでいた咥内が波立ち、口の隙間からそれを漏ら出す。

「…っ、」

空いた片手で未だ張り付く邪魔な布を剥ぎ取ってやれば、いやだ、と抵抗した。

ずるり、止めどなく流れ出る水にすら呼吸を奪われて。

乱暴に僕を引き剥がそうとついたてられた腕は震えている―――あられもない姿のまま追いやられ、羞恥を感じているのか、…或いは。


「…僕が怖い?橘」

自身ですら意地が悪いといえる冷笑を浮かべて見せた。
追い討ちをかけるように剥き出しの太股を撫でれば、ひくり、触れたままの唇が戦慄く。


(―――ついさっきまで、あんなに優しく触れていたのに)

それなのにもう、こんな扱いしかできない。



「…橘、ねぇ」


言ってよ。

僕が怖いって。

そうすれば、容赦なく君を奪ってあげるから。

自らを責めることなく、君を手にできるから。

喰べてしまおうと牙を剥いているのは僕のほうなのに、何故か、縋るようにその胸へと顔を埋めた。

骨張っているそこに感じる柔らかさなんて些細なものだけど、どくどくと早打つ心音だけは、心地いい。



「ぼくが、こわいの」


あぁ、こんな無様に。

傷を負ったのは寧ろ彼女で、縋るべきは彼女のほうなのに。


(…なにか言ってよ、橘)





「―――うるさ、い」

心音に傾けられていた耳に落とされたそれは、震えていた。

痛みに、悲しみに、怒りに、混乱に。


「なに、あんた、意味がわからない…、ひ、引き離したくせに、な、なんで」


ひくり。

とうとう泣き出した顔を、その胸元から見上げる。

酷い顔を、空虚に向けたまま、ぽろぽろ、言葉が墜ちていく。


「わたしだって、あんたのこと、いらないなんて、ゆってな、…ゆっ、ゆったかもしれない、けど、でも、そんなの、嘘だって、わ、わからないわけ、ないのに…!」


なのに、なのに。



「あんたに背中向けられるのが、一番、こわい、」


涙でぐちゃぐちゃになった顔を手で覆って、橘はとうとうボロボロに泣き出した。




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