AEVE ENDING
「…先日、当時の研究資料をやっと手に入れたよ」
入手先は恐らく奥田、未だ研究棟に拘束されている研究者のひとりからか。
「…私は、謝罪を口にしながらも甘く見ていたのかもしれん」
資料とは名ばかりで、書面などひとつもなかった。
研究内容は全て研究メンバーの頭の中に記憶され、残っていたとしてもそれは研究の本髄を明記したものではなく。
「…酷いことを」
パサリ。
机上へ落とされた大量の写真、写真、写真。
薄闇に、白濁が鈍く浮いた。
「―――、…橘」
平たい紙に曝された醜い肢体に、我知らず湧き上がった恐怖と嫌悪が息を飲む。
剥き出しの皮膚はのけぞり、裂かれた腹からは内臓が覗き、そこへ直に繋がれた極彩色のコードが目に痛い。
紙の終わり。
辛うじて映っていた、「それ」の表情は。
「…研究途中、麻酔が効かなくなったらしい。研究者達は構わず、彼女を拘束して研究を続けたそうだ」
―――研究。
口に出せばそれだけだ。
それだけなのに、その内容は。
「…こんなものに、耐えうる者がいたとは、信じられん」
暗澹からすべての哀しみを搾りだすように、男は言った。
両手を天井から釣り上げられ、自由を奪われた状態で背を裂かれ脊髄細胞を抜き取られる。
投与された薬物の影響で腕、腹、顔面を膨張させたまま、それでも回復を待たず、研究台へと乗せられる。
数人の研究者に抑えつけられ、泣きじゃくりながら必死に抵抗する、姿。
時間経過を表すように、従来のヒトの形から骸骨のような骨格へ、そして最終的には、顔も手脚もない異形へと、変わって。
「…、」
―――それでも、眼は死んでいない。
『それこそ、いつショック死したっておかしくない状態だった』
当然だ。
こんなもの、もう既に生き物の限界を越えている。
それなのに、紙面に映る彼女の眼は己を貪る研究員達をなじり、怒り、拒絶し、諦めていない。
『…一度だってアイツは、死にたいと漏らしたことはなかったよ』
このような仕打ちを受けて尚、気丈に立っていた彼女が。
『いなくなって、すぐ』
―――奥田、死なせて。
ねぇ橘、君になにが在った?