AEVE ENDING





「……、」

重い頭がゆっくりと覚醒する。
半分だけ開けた瞼に、いつもなら染みる筈の空の光沢が今日はない。

(朝…?)

いつもと違う朝に確信が湧かない。


(…あれ、)

そこで気付く。

夢を見ていた。

雲雀の夢。

真っ白な空間のなか。

雲雀自身は出てこないのに、いくつかの影が雲雀について話をしている。
反響する曖昧な音が脳を駆け巡り、完全な覚醒を妨げていた。


(ていうか、あつい…)

なにより、この暖かさはなんだ。

普段は寒さに凍えて目が覚めるというのに、今日は寧ろ暖か過ぎる違和感で起こされた気がした。

少しだけ開けた視界に焦点を定めようと努力する。

ともすれば。




「なにしてんだコイツ…」

健やかな顔で眠る雲雀が目の前に見えた。
しかもこちらを向き、倫子を囲うように腕を回して。


「…、まひわは?」

確か、昨夜寝ついた時は真鶸と床を同じにしていた筈だ。
それが何故、兄と入れ替わっている?

起き上がって状況を見ようと身じろぐが、腰に無造作に置かれた重い腕に立ち上がることもできない。

(夢…)

ではもしかすれば、先程見た夢は、現実に起きたものなのではないか。

雲雀の胸板に額を押し付けている気安さ故に感化され―――雲雀の記憶を、覗き見てしまったとしたら。


(有り得なくはない。雲雀の細胞が、私には埋まってる)

その細胞が、雲雀と同調していたとして。



(…陰湿な夢だった)

雲雀を拒絶するような。

空を切る腕や言葉や願いが。

ただ闇に潜む影に嗤われて、堕ちていく狂気。



「雲雀…?」

軽く頭を持ち上げた。

その美しい顔が、よく見えるように。

雲雀はまだ、あの夢の続きを見ているのかと気になって。

なにを、そのうちに持つのだろう。



(私にも影があるように、この男にも)

総てを前に、美しいままある、神の化身は、なにに涙するというのか。



『…橘』


それでもその声は倫子に優しく降り注ぎ、色のない様は寧ろ人間臭い。

そうだなにより、この男は人類に忠実なのだ。




「雲雀」

やはり麗しいままの寝顔に擦り寄る。

頬を額に擦りつけて、ゆるり、垂れた前髪から覗く瞼に口付けて。


どうか安らかに眠れ、と。





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