AEVE ENDING






「…あたまいたい」

テレポートで部屋に戻ってきてすぐ、雲雀はぼんやりとしたままの倫子を浴室へと突っ込んだ。

「当たり前でしょ。半分キレて力を解放したんだからね」

まだ数秒で抑えられたから良かったものの、能力を出し続けた状態で長時間いるには倫子の体は脆すぎる。
その数秒でさえ頭痛や出血を引き起こすのだから、胎内に強力な爆弾を抱えているということだ。



(…バケモノ、)


ツキリ。

無防備な倫子の意識が、雲雀に無意識に流れてくる。


―――バケモノ。


(…最近は、他の生徒達に妙な結束ができてるみたいだ…)

当然、倫子を貶めるためのものだろうが。


「…洗うよ」

倫子をバスタブの縁に座らせ、血にまみれた手を蛇口から流れる湯に浸らせる。
固まりはじめていた血液が淡く霞んでは排水口に流れていった。

施術痕が走る、歪な手は無駄に温かくて、小さい。


「…、」

俯き、静かに呼吸を繰り返している彼女が、支えもなく揺れているようで、だからか。




「…バケモノでいいよ」

気付けばそんな言葉を、吐き棄てていた。

目を丸くしている倫子から視線を逸らすように俯き、爪の中に溜まった血を削ぎ落としていく。

自分でもなんでこんなことを口走ったか、わからなかった。


(…バケモノでいい)


同じだから。



「そうして血肉を分けた、僕と同じバケモノになればいい」

五指の隙間に自らの五指を絡めて、湯の流れにただ任せて、―――このまま、融けて流れていければ楽なのに。




『修羅が司るのは、』

『独りで産まれ、独りで朽ちていく』

『組み込む為に、造った』


神が人類に与えた、唯一の、遺伝子。





「…なんでそんな、私より悲しそうなのさ」

ばかひばり。

囁くように掛けられた言葉。
肩に額を押しつけるように凭れてきた顔が、ひくり、鼻を鳴らした。


「…バケモノでもなんでも、あんたがいるならいいや」

そうしてふたりで朽ち果てていけるなら、胸を焦がすこの傷みすら耐えられる。

握り締めていた手を離し、空いた手を倫子の首に回した。
ゆるりと浮いた額に、こちらも額を合わせるように抱き締めて。

少しだけ水の膜を孕んだふたつの目が、窺うようにこちらを覗き見ている。

そうしてそれが流す涙すら、無駄にしたくない。






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