AEVE ENDING







「夕飯済まして部屋に戻ってもいないし、真鶸は呼び出されて出ていっちゃうし、…あんたの気配をずっと探ってるのに」

見つからないから。

拗ねたように逸らされた目に溜め息を吐く。

まんま子供だ。

迷子になっていたのか、心が。


(…バカだね)





「それで、見つけたの?」

悪戯めいてそのこども染みた顔を覗き込む。

「見つけた」

そうして笑った片割れを、言葉と同時に抱き寄せた。
頬を擦り寄せてくる倫子の後頭部を支えながら、包まれるような温もりに気付かれないよう息を吐く。

膝の上に座り込む倫子のほうが、今は座位が高い。

―――だからか。




「おー。今、あんたを抱き締めてる」

なにが楽しいのか、はしゃぎながら抱く腕を強めてきた。

鼻梁が丁度倫子の顎付近に当たり、その香りが一層濃度を増す。

―――尚更深まる、腕と熱に。


不愉快なまでに明るい夜空はなんの隔たりもなく、この不様な男を覗かせてしまうだろうか。

ねだるように寄せられた睫毛に瞬いて自然、本当にごく自然に重なった唇に軽く感動してしまった。

なんの脈絡も理由も下心もなく、ただ、知りたくて。



「…いてよ」


それは懇願に近い。

触れた唇が小さく痙攣して、躊躇いながらしっかりと。


「ちゃんと、私の近くに」

いつか壊れてしまうとしても。
あんたがいれば、罪の重さに堪えられるから。



「…橘」

もう一度、と口にする前に重なった。

半分だけ開けられた窓からそよぐ潮風は冷たく、触れた唇は枯れている。
かさり、擽る唇を癒すように舐めて、抱く腕に力を込めて、声にならない想いを、舌に載せた。


「…、」

吐き出された呼気が喉を通り胸を焼く。

柔らかく傷だらけのそれは誰のものでもなく、僕だけのもの。




(手離すなんて、)

孤独の神は知ってしまったのだ。

贖罪という名であるにしろ、その暖かさを。

(…寧ろ、)

互いに罪深い産物でしかないその共通点とは全く違う次元で、きっと。



(ちゃんと見てて、最期まで)

わかつ時は必ず、訪れるけれど。







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