AEVE ENDING






(危ういなー、コイツ)

ところどころに開いた穴や亀裂のお陰で翳した手も見えぬほどではないにしろ、視界の妨げにはなる。

普段なら鮮明に見えて当たり前の朝比奈の美しい栗毛が今は暗闇に霞み見えないことが、武藤は気に食わなかった。

せかせかと彼女らしく進む朝比奈の肩に腕を回し、体重をかけるようにして立つ。

当然、殴られるのは覚悟の上で。



「なっ、にするんです、の!」

ずるり、武藤の体重を肩で支えながら、朝比奈は唸るように言った。
が、武藤に耳朶を食わえこまれ、あえなく沈没する。


「昨日、激しかったんだから。腰だるいくせに無理しちゃって。ほら、大人しく俺に任せんしゃい」

地面に腰を着いた朝比奈の腕を引き寄せ、腰を抱く。
そのまま勢いを利用して背負えば、朝比奈が悲鳴を上げた。


「な、に、を、仰っているのかわかりませんわ」
「はいはい。暴れないよー」
「ばっ、馬鹿にしてるんですの!?」
「いやしてねーけど。昨日は俺もさー、ちょっとハッスルし過ぎたかなーって反省し、だだだだだだだっ」
「お黙り。下ろさないとこのまま引っこ抜きますわよ」

後頭部の髪を毟りとる勢いで掴んだ朝比奈を、武藤はしょうがなく地面へと下ろす。
抜けた髪の数本を握る朝比奈を恨めし気に見て、恋人が禿げてもいーのかよ、と呟いた。

そんな武藤を、朝比奈は勝気に睨みつける。

今にも噛みついてきそうだが、彼女に噛まれるならば本能である。

重症だ。

海に揺れる淡い海藻のような髪を見つながら、武藤は小さく息を吐いた。





「…な、雛ぁ」


空は相変わらず、幼い頃から見ていたそれと寸分狂わず重く不愉快なまでに沈黙していた。



「嵐、くるかな」


遠くからこちらを目指す混沌と狂気は、音もなく。







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