手紙
 いいえ、忘れさせません、絶対に。
大丈夫などという無責任な言葉を悪戯に使ったばかりに、彼女は地獄を見るはめになったのですから。
 本当にあなたは不思議な人ですね。
 あんなことがあったのに、まだ「大丈夫」なんていう呪いの言葉を吐き続けているのですから。
 あーあ、死ねばいいのに。
 申し訳ありません、失言でした。軽々しく言ってはいけませんね。あの呪いの言葉の次に、ですけれど。



 彼女は普段から活発なほうでした。あなたもそれはご存知でしょう。私と同じように傍で見ていたのですから。
 スポーツもでき、成績も優秀、人望があり男女問わず人気者。そんな神の申し子みたいな人がこの世にいるなんて、彼女に会うまで思ってもみませんでした。最初は何か裏があるのではないかとも思いましたが、本当に裏表がないのか、隠すのが上手なのか、裏の部分というのが全く見えなかったのです。
 けれど、今思えば馬鹿な話ですね。人間に裏も表もないのに。全部ひっくるめてその人なんですから。
 そんな彼女と私が一緒にいたのは、奇跡のようなものだったのかもしれません。それとも、いつまでも一人だった私を気遣ってくれたのでしょうか。とにかく、私たちはよく一緒にいるようになりました。
 そこにあなたが来たのです。
 私は最初から、あなたの存在が疎ましかった。それは決して、彼女との間に入ってこられたというみみっちい嫉妬心からではありません。
 正確には、あなたの「正義感溢れる」部分が疎ましくて仕方なかったのです。
彼女はお人よしでした。他人を疑うことを知らない子供とも言えますね。あなたの嘘くさい部分など微塵も気づかなかったのです。あろうことか信用、していたようですから、笑うしかありませんね。
 ところであなたは、相手から信用を得るにはどうしたらいいと思いますか? ああ、あなたの場合は、正義というアクセサリーをつけるだけでした。
 では普通、人間が他人から信用を得、他人を信用するにはどうしたらいいのでしょう。

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