トドケモノ 【短】
『…心晴?』
何ヵ月ぶりかの彼の声。
最後に聞いたのはいつだったんだろう。
「…ん…。」
あんまり喋ると泣いてしまいそうで、静かに返事をする。
『あのメール、なに?』
なに、って、あのまんまだよ。
『ドタキャンしたから怒ってる?』
別に、怒ってないよ。
…もう、慣れちゃったもの。
『ごめんって。…何がほしい?』
贈るから。
その一言に、あたしの中でなにかが切れた。
「…か…ない。」
『え?』
「…怒ってなんかない!」
『怒ってんじゃん!』
ほんとに、怒ってなんかないの…。
…悲しいの。
「直は…、あたしのことなんにも解ってないよ…。
…あたし、見ちゃった。
昨日、直が喫茶店にいるの…。」
直が息を飲む気配がした。
「…あたしはモノなんて、ほしくないよ。
モノなんていらないの……ただ、直に会いたかった。」
『……!』
「…カノジョさんと、……幸せにね?
…ばいばい、直。」
そして、無機質な機械音とあたしのすすり泣きだけが部屋に響いた。