恋蝶

舞蝶




あの日の放課後私達は
教室に残っていた。





話した事など無かった。



貴方に興味なんて
少しも無かったの。


ただ綺麗だと
心から思ったんだ。


整った顔に丸い瞳
スッとした鼻だち
ふっくらした唇



女の私が嫉妬するほどに
彼は魅力的だった。





「…………何見てんの?秋山さん」
少し不機嫌な彼の顔。
彼が私の名前を
読んだことに驚いた。


「なんで?」
名前を知ってるの?
目立たない私なのに。
否そうしているのに。


だってと
彼は口を開いた。



「何か美味しそう」


お前何か落ちつくよな
って笑顔で続けた彼。




「は?」



何なの美味しそうって。
どういう意味?

落ちつく?
そんな訳ない。




私が驚いてるのを
後目にただ彼は笑って
こう言った。





「春人って呼んで?」


「…………う…ん?」


「駄目。
ちゃんと呼んで?」


勘だろうか?
呼んでしまったら
堕ちてしまう気がした。


でもあなたに見つめられてしまえばそんなの関係なくって勝手に動いた唇。


「……っ……春人っ」




それを満足気に聞いた彼は教室を出ていった。






華のように



赤い私を残して。





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