星屑
あたしの腕を掴んでいる男の手を、さらに別の人間の手が掴み上げた。


オヤジは苦痛と恐怖に顔を歪め、ぱっとあたしの手を離す。


少しの痛みの残る腕をさすりながら、面倒なことになったな、と思った。



「次にこいつに声掛けたら、命ねぇぞ?」


すごむ彼に恐れをなし、オヤジは平謝りで逃げて行く。


その後ろ姿を見送った後、「奈々!」と低い声で、彼はあたしの名前を呼ぶ。



「お前、こんなとこで何やってんだよ?」


相変わらずの怖い顔だが、学校ではあれほど浮いているはずの彼も、この場所では普通に見えるから笑えてしまう。



「あたし、ヒロトの女だっけ?」


「まず俺の質問に答えろよ。」


「ありがとね。」


笑うあたしに、彼は諦めるように息を吐く。


どうにも会話は噛み合わないが、まさかこんな場所でヒロトに会うなんて。



「んで、ヒロトこそ何やってんの?」


お前なぁ、と言った彼だったが、怒ることを諦めたのか、舌打ちをした後で、バイト帰り、と付け加えられた。


彼は煙草を咥え、壁に寄り掛かる。


なのであたしも同じように壁に寄り掛かり、また通りへと視線を投げた。


不機嫌そうな顔で煙を吐き出すところも、やっぱり勇介と似てると思う。



「お前、相変わらず徘徊してたのか。」


ここでヒロトに助けられたのは、さっきを含めて3度目だ。


でも、いつも理由は聞かれない。



「前から思ってたけど、お前少しは危機感持てよ。」

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