星屑
勇介に抱き締められると、雨音が遮断されたような錯覚に陥る。


屋上へ行くことは出来なくとも、ここでだけは、何を気にすることもない。



「好きだよ、奈々。」


無邪気に彼は言いながら、笑ってあたしの首筋にキスをする。


身を預けてしまいそうな意識を寸前で手繰り寄せ、顔を背けた。



「…奈々?」


あたしの様子に気付いたのか勇介は、いぶかしげに眉を寄せた。


気を緩めれば泣き出してしまいそうで、ごめん、と呟くことが精一杯だ。


ヒロトの本気を見た以上、この人とこんな風にしていて良いはずがない。



「こういうの、もうしないで。」


精一杯で言ったはずなのに、彼はぴくりと眉を動かし、あたしの真意を探ろうとするような顔に変わる。


その瞳が嫌で、唇を噛み締めたのに。



「どうして?」


勇介は尋問をするように冷たい目をする。



「葛城と何かあった?」


背中にはコンクリートの壁、四方に逃げられる場所はなく、やっぱり目を逸らすことでしか意志を示せない。


勇介を、自分の都合の良い逃げ場所のように考えていてはダメなのだ。


例え彼がそれを良しとしてくれていても、こんなおかしな関係は長く続けるべきではない。



「わかったよ、もうしない。」


少しの沈黙の後、ふわりと離れた体。


恐る恐る見上げるより先に彼はあたしから視線を外し、階段を降りる。


そのまま去っていく後ろ姿を見つめながら、自分勝手な悲しみに襲われた。

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