星屑
言って、さっさときびすを返してしまう彼に、首を傾げてしまうのだが。


ふと、視界の端に見つけた人物の姿に、あぁ、と漏らした。



「…そんなとこで何やってんの?」


「ひなたぼっこのついでに奈々の観察。」


あそ、とあたしは言った。


勇介は校舎の壁に寄り掛かり、少し眠そうな顔をしている。


スッチといるのを見ていたとしても、それが彼だからか、これと言って何かを言うわけでもない。


初夏の風が吹いて、勇介の前髪が僅かに揺れた。


目を細めて首を傾ける仕草は相変わらずで、初めて会ったあの日と同じ。



「そんなに見つめられると困るって。」


弾かれたように意識を手繰り寄せてみれば、彼は口元を緩めて見せる。


そんなに見ていたつもりはないのだが、でも勇介は、その顔を崩すことなく指先を伸ばす。


それはあたしの首筋を伝い、鎖骨の辺りで指を止めた彼は、視線を戻した。



「キス、したくなる顔。」


もうするな、と言った日以来、勇介は本当にあたしに何もしなくなった。


代わりにこういうことばかり言って、まるで試すような瞳を向けたがるのだ。


喉の奥が閉まるような、どうにも息苦しさを覚えてしまう。


こんな指先だけであたしの身動きを取れなくさせるなんて、やっぱりこの人は魔法使いだろうか。



「可愛いね。」


まるで小動物を愛でるように、彼は言う。


僅かに視線を外すと、やっとその指先はあたしから離れた。

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