星屑
「あたし、トキくんち行く。」


沙雪は帰ることを選び、ヒロトはそれでも着いて来ることを選んだ。


そしてあたしは、彼のマンションに向かって歩く。


どこかに逃げるのは、やっぱり悪い癖になっているのだろう、もう自覚はしてるけど。


ヒロトと一緒にトキくんの部屋の前に立ち、チャイムを押した。


少しして顔を覗かせたのがシンちゃんだった時には、驚いてしまったけど。



「奈々と、ヒロト?」


彼は眉を寄せてあたし達を見た。


いや多分、赤い目をしているあたしに気付き、おまけに横にいたのがヒロトだったからだろうけど。



「てめぇの所為か?」


「俺じゃねぇっすよ。」


でもシンちゃんは、ヒロトの言葉を聞くこともなく、今度はあたしに「じゃあ勇介か?」と聞いてきた。


視線を外すと、それを肯定と受け取ったのだろう彼は、舌打ちを混じらせる。



「帰れよ、ヒロト。」


言われた彼もまた、舌打ちを混じらせる。



「奈々、とりあえず夜に連絡すっから。」


素直に引いたヒロトには驚いたけど、でも正直、気にしてられる余裕はなかった。


シンちゃんの顔を見たら、また涙腺が緩みそうになってしまう。


部屋の中に招かれ、あたしに気付いたトキくんもまた、驚いた顔をしていた。



「トキ、悪ぃけど店のこと頼めねぇ?」


「良いよ。
あと、この部屋も好きに使って。」


さすがは察しの良い彼だ、そう言ってから鍵だけを置き、部屋を出てしまった。


トキくんに会いに来たはずなのに、シンちゃんとの予想外の沈黙が嫌に重苦しい。

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