星屑
「奈々ちゃんが機嫌悪いと兄貴まで怖い。」


そう言って、彼はあたしの前に置いてあるアルコールのグラスを奪い、代わりにジュースを置いてくれる。


こんなに優しいのに、何故この人は結婚すらしないのか謎だけど。



「思春期なんて、男も女もそんなもんだよ。」


「そうやってトキが甘やかすから悪ぃんだよ。」


「奈々ちゃんのこと甘やかしてんのは兄貴でしょ。」


「馬鹿言うな。」


認めたがらないシンちゃんに、トキくんは笑っていた。


頬杖をついてそんな兄弟喧嘩を見守っていると、カラン、と店の入り口に取り付けてあるカウベルが鳴る。


顔を向けてみれば、その人物の姿に驚いた。



「…勇介?」


勇介が、しかもひとりっきりでこの店に?


どうしてなのかはわからないが、シンちゃんはいらっしゃい、と心のこもっていない声で言う。


あれ以来、多分まともに顔を合わせたのなんて久々だったろう。



「奈々もひとり?」


そう言った彼は、あたしの傍にいるシンちゃんとトキくんを一瞥した。


が、彼らがあたしから離れたので、勇介は傍に寄ってきた。



「また会っちゃったね。」


いつもの笑顔はどこか頼りないもの。


シンちゃんは黙って彼の前に注文していない酒をコトッと置き、煙を吐き出した。


何か見られてるみたいで怖いんだけど。

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