月夜の送り舟
みんなの言うことはよくわかるのです。
つい先日まではサイだってそう思っていたのですから。
でも、カッパはそんなんじゃないのです。
みんなはカッパのことをよく知らないだけなのです。
しかし、どう言えばみんなにわかってもらえるのか、サイにはわかりません。
ともかく、送り舟に提灯を飾ることは諦めるよりほかありませんでした。
サイは河に行き、舟を出しました。
サイが代わりに送り舟をやることをカッパの娘子に伝えるためです。
「カッパの娘子よ、聞いとるか。聞こえとったら出てきてくれ」
サイは大声で叫びます。
聞いているのかいないのか、返事はありません。
でも、諦めるわけにはいかないのです。
舟を河の流れにのせて、何度も何度も声を振り絞りました。