月夜の送り舟
「父が亡くなりましたので、もう送り舟など望む者もおりません。サイさまにはせっかく引き受けて下さいましたのに、大変申し訳ございません」
「し、死んでしもうたのか。まさか、あのときの、皿が割れてしもうたのが、・・わしが蹴っ飛ばしてしもうたのが悪かったのか・・」
娘子は真っ直ぐにサイを見つめています。
「あの夜、連れ帰りまして、それからずっと動けぬまま伏せっておりましたが、昨夜とうとう逝ってしまったのでございます。
いえ、気になさることはございません。サイ様に送り舟を引き受けてもらえたと、それはそれは大喜びでございました。
それに布団にまで寝かせてもらえたと言って、カッパの中でも布団に寝たことがあるのはわたしだけだろうと申しまして、本当に喜んでいたのでございます」
サイはカッパの話しを聞いているのかいないのか、ぶつぶつ口だけは動いていますが、目はうつろで、目の前のカッパの姿さえ映ってはいないようです。
カッパは深々と頭を下げ、そっと帰っていきました。
サイはそんなカッパに声すらかけることもできませんでした。
「花嫁姿を楽しみにしとったろうに、見ることもかなわんで死んでしもうたんか」
一睡もできないまま、しだいに夜は明けていきました。