とある男女の攻防戦
「駅で見かけた時、すっごくお似合いだなぁって思いましたもん!」
そう言えばこの前ばったり会ったっけ。忘れてたけど。
「ありがと。あ、もういいよ。」
「わぁー可愛いっ!前のネイルも“可愛いね”って言ってくれてたんですけど今回のも気付いてくれるかなー?」
目の高さまで両手をあげ、嬉しそうに笑う彼女に私も自然と笑顔になる。
「これからデートなの?」
「はいっ!デートって言っても食事だけなんですけどね。あ、ありがとうございました!」
「気を付けてね、」
手を振りながらガラス扉の向こうへ出ていく姿を見送った後、
……食事だけでデートって言うのなら
私も今からデートなんだ。
と他人事のように思った。
ふと振り返れば少し離れた所でお客さんに仕事をしている店長。
ドアが開いた時に鳴る鈴の音で私が終わったのだと気付いたらしく
指先から視線を上げた店長と視線が合った。
(……お先にあがります)
ニッコリと笑ってくれて。私は手早く片付けて店を後にする。
駅の方へ向かいながら肩に掛けたバックから携帯を取出し電話をかける。
急ぎたいのにヒールだから上手く走れないのがもどかしい。いくら早く上げて貰ったと言っても
点いたスマホ画面は20時を表示している。