恋時雨~恋、ときどき、涙~
〈わたしは、果江、じゃない! 真、央!〉


その手話を、順也は訳そうとしない。


わたしは、順也に乱暴な手話をした。


〈言って! 早く、言ってよ!〉


ハッとした順也の唇が、重たそうに動く。


「わたしは、かえ、じゃない。ま、お」


健ちゃんもハッとして、わたしを見つめた。


〈わたしは、果江さんじゃない!〉


健ちゃんに、知って欲しかった。


本当は、果江さんと再会して欲しくないことを。


本当は、これからも一緒に居たいことも。


泣くつもりなんてないのに、わたしは狂ったように泣いていた。










病室を飛び出していたことに気付いたのは、家の近くまで来た時だった。


家に着くまでの間、わたしは何度か転んだらしい。


膝の頭がすり切れ、血が滲んでいた。


その日、わたしから健ちゃんにラインを送ることはなかったし、健ちゃんからも連絡は来なかった。


やっぱり、健ちゃんは、果江さんを選ぶのだろう。





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