恋時雨~恋、ときどき、涙~
どうして、中島くんがサークルの先輩から聞いただけで、静奈だと言い切ったのか。


だって、明確な証拠なんてないはずだ。


そして、なぜ、幸までもが風俗の世界にいることを知っているのかも。


でも、わたしは椅子に深く沈んだまま、動こうとはしなかった。


動きたくても、動けなかったからだ。


すぐに、静奈にラインをすればいいのに。


すぐに、幸にラインをすることだってできるのに。


わたしはしなかった。


怖かったからだ。


ラインをして問い質すことが怖かったわけじゃない。


仮に、もし、返事がきた時が何よりも恐ろしく思えた。


それは嘘だ、とか、してない、とか。


そう返事が来たらほっと胸を撫で下ろす反面、わたしはふたりに疑心を抱くに違いない。


本当だ、とか、してるよ、だとか。


それが返事だとしても、その後の返事を返す心の余裕もない。


窓の外で、紅葉した木の葉が風に揺れていた。


その葉の隙間を縫うように、曖昧な空の隙間から淡い陽光が一筋になって、的紅射し込む。


これは現実なのだろうかと疑いたくなるような、そんな曖昧な空色だった。



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