恋時雨~恋、ときどき、涙~
「私な、冬休みになったら、一度、地元に戻ってくるわ。そうでもしないと、忘れてまいそうやねん」


幸が唇を強く噛んで、華奢な体を震わせた。


「彼氏に愛されとった記憶が、なくなりそうや……自信がないねん」


わたしは、幸の手を握った。


幸の手は何かに怯えているように震えていて、氷水のように冷たかった。


「私、結局、何もしてやれんかった……めっちゃ会いたいわあ」


そう言って、幸は学食の窓の向こうに広がる、低い青空を見上げた。


「信じられん」


空を眩しそうに見つめる幸の横顔は、あまりにも美しかった。


「もう、会えんのやなあ」


長い睫毛に透明な滴が付いていて、高級なダイヤモンドのように光る。


星の砂で造られたシンデレラのようだ、と思った。


幸は必死に笑顔を保っていたけれど、何かひとつ糸が切れてしまったら、波にさらわれそうな砂のシンデレラのようだ。


打ち付ける白波に一気に持っていかれてしまいそうなほど、繊細なオーラを放っている。


儚い。


わたしたちは、午後の講義をさぼることにした。


夕陽が落ち始めるまで、ずっと、学食にいた。


ほとんど話をしなかった。


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