恋時雨~恋、ときどき、涙~
でも、健ちゃんはわたしの目を見ずに、コートを越えて向こう側の観客席を見つめながら両手を動かす。


わたしは、健ちゃんの両手を見つめた。


「順也の足が動かなくなったからって、何もかも終わったわけじゃねんけ。これからが、始まりだ」


健ちゃんが、わたしの左手を掴んだ。


人差し指を出せという。


わたしは首を傾げながら、言われた通りに人差し指を突き出した。


健ちゃんの唇が、ゆっくり言った。


「苦しみは代わってやれねんけ。でも、支えてあげることは、誰にでもできるんだぞ」


健ちゃんはにっこり微笑んだ。


そして、わたしの人差し指を向こうに向けた。


わたしは息を呑んだ。


体の底から熱い何かが込み上げてくる。


向こうの観客席に、静奈がいたのだ。


いつ、ここへ来たのかは分からない。


試合前はいなかった。


静奈は、いつも可愛らしいフェミニンな服を好んで着る。


でも、向こうにいる静奈は、ジーンズに大きなパーカーを羽織り、フードをかぶっている。


できるだけ目立たないように、静奈なりに考えた服装なのだろう。


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