恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしは肩をすくめた。


静奈は、順也のところへ戻ってくるのだとばかり期待していたからだ。


静奈は苦しそうに、泣きながら手話を続けた。


「もう、私は静奈じゃないから。静奈っていう名前を汚したから」


わたしと健ちゃんは、たぶん、同時に息を呑んだ。


止めようと思えば、どうにでも止めることができていたのだと思う。


でも、息を殺すことで精一杯だった。


「私、風俗で働いてる」


冷たい雪混じりの風が、順也と静奈の間を強く吹き抜けた。


さすがの順也も、驚いたに違いない。


でも、驚いたのはわたしの方だった。


順也は顔色ひとつ変えずに、静奈を優しい目で見つめていた。


だから、驚いた。


「私、いろいろ調べたんだよ。順也の足、治る方法ないかって」


「うん」


順也が頷く。


「そしたら、インターネットのサイトに載ってた。手術をすれば治るって」


「そう」


順也が苦笑いをして、頷いた。


「けど、でたらめの情報だよ。これ、はもう治らないんだから」


肩をすくめながら、順也は両膝を撫でた。


「でも、私は必死だったよ。順也と、もう一度やり直したくて。その一心で。足が治れば、戻れるかもしれないって……思ったから……」



< 377 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop