恋時雨~恋、ときどき、涙~
粉雪が薄く積もった階段を、ゆっくり降りてくるブーツが見える。


黒いツイードコートの裾が見えた。


わたしは、息を止めた。


その人はフェンス越しのホームを歩いてきて、わたしの正面に来ると、大きな荷物を足元に落とした。


彼女のきれいな両手が動く。


「それは、プロポーズ?」


わたしは、フェンスに飛び付いた。


静奈が、目の前で手話をしているのだから。


「プロポーズ、なのかな……」


静奈の唇が震えていた。


わたしは小首を傾げて、微笑んだ。


〈たぶん、そうだと思う〉


静奈のミステリアスな目から、ぽろぽろと涙が落ちる。


静奈の右手の薬指には、今日も、あのシルバーリングが輝いていた。


「そのプロポーズ、お受けします」


そう手話をして、静奈はホームの階段を駆け上がった。


雪がやみ、冬の低い青空が広がっていた。


フェンスにしがみついて、静奈を目で追い掛けるわたしの肩を、大きな手が叩いた。


「行くぞ」


健ちゃんが、わたしの手をつかんで駆け出した。


わたしは引きずられるように走った。


駅の東口に飛び込み、短い階段を駆け上がる。


改札口に向かって、一気に駆け抜けた。



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