恋時雨~恋、ときどき、涙~
その手話を、静奈は見ていない。


でも、順也は静奈を見つめながら、手話を続けた。


「ずっと、一緒にいよう。ぼくと、結婚、してください」


順也が手話を終えてしばらくしてから、静奈が順也を見つめた。


「ねえ、順也」


「なに?」


「ありがとう」


冬の陽射しが、抱き合う2人に優しく降り注いでいた。


わたしは泣いた。


嬉しかったから。


健ちゃんに肩を叩かれた。


「真央の兄ちゃんは、かっこいいな」


わたしは、何度も何度も頷いた。


順也は、わたしの、宇宙一かっこいい兄なのだ。


19歳の冬。


順也と静奈は、何度も回り道をして、もう一度、手を重ねて再び歩き出した。


わたしは、幸せだった。


2人の事が自分の事のように思えて、幸せの絶頂だった。


でも、わたしは何も分かっていなかった。


これは、嵐の前の晴天に過ぎなかったのだ。



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