恋時雨~恋、ときどき、涙~
何するのよ、と言ってやりたいところだが、狭くて手話ができない。


わたしは額を押さえながら、健ちゃんの唇を読んだ。


「あれ、何やってるんけ?」


それは、こっちが訊きたい。


わたしは、健ちゃんにあっかんべーをして、再び2人に視線を戻した。


健ちゃんが、またわたしの肩を小突いた。


でも、わたしは無視した。


見とれてしまったからだ。


静奈の左手の薬指に。


「きれい」


静奈の唇がそう言っているように見えた。


静奈は、冬の空に左手をかざしていた。


華奢な、細い細い指だ。


静奈の薬指には真っ赤な毛糸が1本、蝶々結びされていた。


静奈は、蝶々結びされている薬指を嬉しそうに見つめて、うっとりしていた。


わたしも、うっとりした。


本当に、きれいだったから。


静奈の細い指に、赤い毛糸が良く映えていた。


何千カラットのダイヤモンドよりも、豪邸のシャンデリアよりも、断然、きれいだった。


静奈が、羨ましくなった。


凄まじくきれいだったから。


静奈が、雪の空に左手をかざして薬指を見つめて微笑む横で、順也が両手を動かした。


「しー。20歳になったら、もう一度、プロポーズさせて」



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