恋時雨~恋、ときどき、涙~
わたしは部屋を飛び出して、リビングに向かった。


いい匂い。


目玉焼きのこうばしい香りが漂っていた。


朝ご飯の支度をしているお母さんの肩を叩く。


「どうしたの?」


〈お願い。教えて欲しい〉













その日の午後、15時すぎ。


わたしは、健ちゃんのアパートへ向かった。


仕事を終えて健ちゃんが帰宅するのは、17時30分ころだ。


残業がなければ、たぶん。


それまでに、健ちゃんの好きな料理をテーブルに並べて、プレゼントを用意して待っていたら、びっくりするだろうか。


びっくりしたんけー、そう言って笑って、八重歯をこぼすかもしれない。


わたしはうきうきしながら、雪路を急いだ。


アパートに訪れたのは2週間ぶりで、薄く懐かしい気持ちになった。


粉雪が薄く積もったらせん階段を登り、合鍵で鍵を開けて健ちゃんの部屋に入った。


わたしは、勘がいい方なのだと思う。


玄関に入った瞬間に、違いに気付いた。


匂いだ。


それと、雰囲気。


まだ日中だというのに、分厚いカーテンが閉まったままの薄暗いリビング。


閉まったカーテンの僅かな隙間から陽の光がかぼそく射し込み、リビングを舞う小さなほこりを照していた。



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