恋時雨~恋、ときどき、涙~
ハッとして顔を上げると、健ちゃんが驚いた顔をして立っていた。


「真央。電気も付けないで、何してるんけ」


健ちゃんは、仕事の作業着姿だった。


わたしは時刻を確認して、自分に呆れた。


なんてバカなんだろうと思った。


ここへ来た時はまだ明るかったのに。


でも、真っ暗になったことにさえ気付かずに、何をしていたのかさえ、覚えていない。


本当に、バカみたいだ。


健ちゃんの両手が、知らない人のものに見えた。


「鍵、開いてたから、びっくりした。無用心だんけ」


寂しかった。


健ちゃんは笑いながら、カラーボックスの上に車のキーを置いた。


鍵が開いていたから、まだ、果江さんが居ると思ったのだろうか。


健ちゃんが、わたしに微笑みかけてくる。


でも、わたしは何も返さずに、ただ、健ちゃんを見つめ続けた。


「真央?」


健ちゃんが、わたしの顔を扇いだ。


少しだけ、雪のつーんとした匂いがした。


「いつ、来たの?」


わたしは、にっこり微笑んだ。


でも、本当は、これっぽっちも笑いたくなんてなかった。


わたしは、嘘をついた。


< 418 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop