恋時雨~恋、ときどき、涙~
〈果江さんと言い争いになった。それに、果江さんが苦しんでいるのに、わたしは何もしてあげることができなかった〉


わたしが冷静になって果江さんの話をきいてあげていられたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。


果江さんが興奮したりしなくて済んだのかもしれない。


〈ごめんなさい〉


もう一度謝ると、健ちゃんはあっけらかんと笑った。


こんな時だっていうのに、笑った。


「なに言ってるんけ。真央はちゃんと助けを呼んだだろ」


え? 、と顔をあげると、健ちゃんの優しい瞳と目が合った。


「聞いた。順也から。真央、電話かけたんだってな」


わたしは頷いた。


でも、やっぱり納得がいかなかった。


〈でも、わたしの耳が聴こえていたら、すぐに救急車を呼ぶことができた! 話せていたら〉


そこまでいいかけた時、健ちゃんがわたしの両手を掴んだ。


「真央は、何も悪くねんけ。自分を責めるな。真央も果江も悪くない。誰も悪くねんけ! こればっかりは仕方のないことだんけ」


とにかく、行こう、そう言って健ちゃんはわたしの手を引いて病院の中へ入った。


わたしと健ちゃんはエレベーターに乗り、3階へ向かった。


エレベーターを降りると、フロアーには重い重い空気がずっしりと漂っていた。


薄暗いフロアーには、睨み合う静奈と亘さんのシルエットがあった。


2人とも、鬼のような形相で何かを言い争っていた。




< 531 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop