恋時雨~恋、ときどき、涙~
「大丈夫か、順也」


健ちゃんは順也の体を抱き上げようとしたけれど、


「順也」


ハッとした顔をして、動きを止めた。


亘さんの頬にぽつりぽつりと透明な滴が、一定の速度で落ちていく。


ぽつり。


ぽつり。


ぽつり。


また、ぽつり。


それが順也の涙だと分かるまで、時間は要さなかった。


順也は、亘さんの胸に額をつけて泣いているようだった。


わたしは、順也の背中を叩いた。


順也は体を起こして、わたしの手を掴んだ。


「真央」


わたしは、泣きながら言う順也の唇から、目を反らすことができなかった。


「亘さんに、真央の何が分かるの?」


順也の大きな手が、わたしの手を強く握ってくる。


痛いほどに。


「真央は、普通の女の子だよ! 真央は、ぼくやしーや健太さんと同じ世界に、こうして生きてる」


真央は、誰よりもがんばり屋なんだ。


耳が聴こえなくても、いつも笑ってるんだ。


めったに弱音をはこうともしないんだ。


真央は走るのが得意なんだ。


真央は数学が苦手だけど、国語はすごく得意なんだ。


真央は料理が上手いんだ。




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