恋時雨~恋、ときどき、涙~
何か話があるのなら、肩を叩いてくれたらいいのに。


唇は読めるのに。


もどかしくて、わたしは健ちゃんの腕を引っ張った。


何? 、と心の中で訊きながら、わたしは健ちゃんの顔をじっと見つめた。


健ちゃんがわたしの額にデコピンをして、大きな口を開けて笑った。


そして、飲み物買ってくる、そう言って、さっさと屋台が並んでいる方へ行ってしまった。


唇を尖らせて額を撫でていると、右隣に居た静奈が肩を叩いてきた。


「今日の真央は、特別」


首を傾げたわたしに、静奈がにっこり微笑んで手話を続けた。


「かわいいって。今、健太さんが言ってたよ」


わたしは、へんな汗をかいてしまっていた。


かわいいと言ってくれる男の人は、お父さんくらいだったからだ。


わたしは恥ずかしさのあまり、静奈から目を反らしてうつ向いた。


頬が沸騰したように熱い。


その時、誰かに肩を叩かれた。




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