恋時雨~恋、ときどき、涙~
豪快にバタートーストにかぶりついた幸の顔を扇ぐ。


〈幸?〉


「なんやねん。あほう」


幸はにっこり笑って、わたしに両手を向けた。


「もう、大丈夫や」


幸は、晴れやかな表情をしていた。


「もう、心配せんでええ」


椅子に座ったわたしの顔を、幸が扇ぐ。


「な。真央。心配せんでええ」


そんな顔せんとき、と幸は笑った。


「もう、死にたいなんて言わへんし、あんなことせえへん」


約束や、そう言って、幸がわたしに小指を突き出した。


小さくて、華奢な小指だ。


〈約束?〉


「せやで。約束や」


幸の小指に、小指を絡める。


わたしたちはふたり同時に吹き出して、笑った。


嬉しくて、たまらなかった。


この一晩のうちに、幸の気持ちに何があったのか、どんな変化があったのかも、わたしには分からない。


でも、交わした約束が、ただ嬉しかった。


幸が作ってくれた朝食は、どれもこれも温かくておいしかった。


フォークを置いて、幸が微笑んだ。


「ありがとうな。真央」


幸の笑顔に、わたしの心臓がジャンプした。


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