恋時雨~恋、ときどき、涙~
こんなふうに穏やかに微笑む幸を見たのは、いつ以来だろう。


「真央が」


幸が、わたしを指差した。


「真央が、初めてやった」


わたしは人差し指を左右に振って、首を傾げた。


〈何が?〉


幸が照れくさそうに肩をすくめる。


「嘘でも何でも。一緒に死のうとしてくれた人間は、真央が初めてだったんよ」



〈夢中だったから〉


「せやけど、うち、ほんまに嬉しかったんやで」


ありがとうな、と幸は何度も何度も、同じ手話を繰り返した。


どんなに苦しくて辛くても、必ず、朝は訪れる。


今日が涙の日でも、必ず、明日という日はやってくる。


それは時に残酷で、時に幸福で。


けれど、どんなに泣いていても、必ず、夜は明ける。


例えば、寒い寒い冬のあとには必ず、暖かな陽射しに包まれる春が待っているように。


悲しみのあとには、必ず、嬉しいことがある。


だから、ね。


幸。


もうすぐ、来るよ。


幸という女の子に、幸せは必ず訪れる。
















食事を終えて食器を洗っていると、誰か来たみたいや、と幸はキッチンを出て行った。


< 675 / 1,091 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop