恋時雨~恋、ときどき、涙~
リビングへ行くと、お風呂上がりの健ちゃんがバスタオルを首にかけて、ソファでくつろいでいた。


だらしなく寝そべりながら、テレビを眺めている。


わたしはリモコンを掴んで、電源を切った。


健ちゃんが飛び起きる。


「あっ! 何するんけな! 今」


と言いかけた手を止めて、健ちゃんが首を傾げた。


「何だ? 泣きそうな顔して。何かあったのか?」


そうか。


わたし、泣きそうな顔しているのか……。


そうか。


首を傾げる健ちゃんに、わたしは手のひらを差し出した。


「お、それ。懐かしんけ。まだ持っててくれたのかあ」


わたしの手のひらからひまわりの髪飾りをつまんで、健ちゃんはくすぐったそうに笑った。


「懐かしいなあ」


〈健ちゃん〉


わたしは、健ちゃんの顔を扇いだ。


言わなきゃ。


言わなきゃ。


いつまでもこんなことしてられない。


ちゃんと、伝えなきゃ。


〈あの時、健ちゃん、言ってくれたよね?〉


「何を? おれ、何か言ったっけ」


わたしは小さく笑って、両手をゆっくり動かした。


両手を握って肘を張り、こぶしを二回、下へ押した。


〈元気に、笑う、って〉


笑顔を作って、右手の指先で左の頬を、繰り返し叩いた。



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