恋時雨~恋、ときどき、涙~
順也が病院に運ばれた後、帰り道で静奈がこぼした浮気疑惑を、健ちゃんはどうしても信じられなかったと言っていた。


順也は、浮気をするような男じゃない、と。


それで、亘さんと汐莉さんの力を借りて、順也の知り合いを片っ端から当たり、誤解を解いてくれたのだった。


今、ふたりの右手の薬指には、少し早く届けられたサイズ違いのペアリングが輝いている。


光沢のあるその輝きは、まるで朝日が乱反射する海の水面のように眩しい。


病室に入って来た静奈は、いそいそと鞄から一冊のパンフレットを取り出した。


「順也が退院したら、3人で行かない?」


静奈のきれいな手には、北海道の夜景が載っているパンフレットが握られている。


それを見た順也は、目を輝かせた。


「旅行か。いいね。行こう。ね、真央」


わたしは、素直に頷く事ができなかった。


だって、順也の足は……。


その事を、わたしは、どうしても静奈にさえ伝えることができずにいた。


順也が歩けないかもしれない事を伝えれば、静奈がおかしくなってしまうんじゃないかと思った。





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