JACK IN THE BOX
「さ、明日も学校だろう?もう寝なさい」

「うん!パパ、ママ、おやすみなさい!」

階段を駆け上がる息子を見送る父親に、妻が話しかける。

「あの子に教えてあげれば良かったのに。あの記事を書いたのはパパなんだよって」

父親――キースは微かに笑い、首を横に振った。

「もう何年?やっと掲載してもらえたのね、フェリクさんの記事」

ああ、と頷き妻を振り返る。

「嬉しいな。Jr.が彼のようになりたいって言ってた事が」

「そうね」

マリーは寂しそうなキースの肩にそっと腕をまわす。

“彼”からもらったフェリクという名前。区別するため、二人の会話では息子をJr.と呼んでいる。

「最近あの子を見ていて思うんだ。彼にもあんな頃があったのかなと」

今よりも自由が無く、言動を規制されていた重く暗い時代を生きた彼に。

無邪気に笑い、学び、遊び。

誰かと出会い、友情を育み。

そして、いつしか誰かに想いを寄せ―――

そんな、今では当たり前で平凡に思える小さな幸せが、彼にはあったのだろうか。

キースはやりきれない思いをため息にのせて吐き出した。

「フェリクさんの分も、Jr.には幸せになってもらいたいわ」

マリーは腕に力を込めて夫に囁く。

「……そうだな」

ややあって聞こえたキースの返事は微かに涙で濡れていた。




「フェリク――!」

幼なじみの少女が笑顔で手を振る。

「お早う、ケイト!」

少年は嬉しそうに頬を紅潮させて、笑顔で駆けていく。


平凡な、幸せ。

この幸せがいつまでも続くようにと、切に願う。


息子を見送ったキースは、机にある“彼”の資料に目をやった。何とかして辿ったわずかな足跡。

若くして亡くなった彼の人生に一つでも幸せがあったようにと願いながら、キースはペンを握った。



《Jr. Fin》


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