JACK IN THE BOX

Remember you[ミニストーリー]

『元気になったね』

その方は私に優しく微笑んでくださいました。

その笑顔を忘れないために、私は花を咲かせ続けるのです。



私がお世話になっていたのはとある国の新聞社でございました。

全国紙では無い小さな社ではありましたが、国の偉い方が全ての記事を確認するほどでしたから、さぞ優秀な新聞社だったのでしょう。

その窓辺に置いていただき、私は花を咲かせ幸せな毎日を過ごしていたのでございます。

しかし、書き直しや刷り直し等が次第に増えて日に日に皆様お忙しくなり、いつしか私の存在は忘れられてしまったのです。

お水を頂けず、葉がしおれてしまいました。土は固くなり、息をするのもひどく苦しい日々が続きました。

やがて葉は全て茶色く枯れて落ち、普段なら嬉しいはずの陽の光さえ苦痛に思えるほど、私は渇ききってしまったのでございます。


そんなある日の事でした。

「このバラ、何色ですか」

どなたかが私の鉢を持ち上げてお尋ねになりました。背が高くて目元の優しい、金髪の若い男性が私を心配そうに眺めていました。もう一度咲くとは到底思えないほどに枯れた私をです。

「さあ。そんなんじゃバラかどうかも分からんね」

やはり皆様お忙しいようで、にべもないお返事が返ってきました。初めてここに来た時には、とてもお優しかったのに。

「Mr.レイズ、君には花を愛でる以外に仕事が無いのかい?この間みたいな記事はもうごめんだよ」

「すみません」

「君の考えは個人的には嫌いじゃないがね、今のご時世、相手を逆なでするような真似は極力避けてくれ」

はい、と答えて私に視線を戻したその方はひどく寂しそうな表情をしておられました。

なぜ、そんなに悲しそうな顔をなさるのかしら。なぜ、私に気づいて下さったのかしら。

その疑問を言葉には出来ない私に、その方はそっとお水をくださいました。鉢底から溢れるまで。

私は嬉しくてたまりませんでした。渇きが癒えるまでたっぷりとお水を頂けたのです。ああ、この日をどれだけ待った事でしょう!

「もう一度咲くと良いな……」

そう言って微笑んだ青い瞳がやはり哀しそうで。

Mr.レイズ。その方の笑顔が見たくて、私はもう一度花を咲かせようと努力致しました。


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