うさぎ
私はうさぎ。
雪みたいな白い体に、ぽたっと真っ赤なインクを落としたような目をしたうさぎ。
そしてみんなと少し違うのは、私が実験動物だってこと。
生まれたときよりもっと前から私の生き方は決められていたし、べつにそれをどうこう思うって気はないの。
ただ目の前で兄弟達が苦しんでいるのを見るのはちょっと嫌ね。
私は小さい頃に連れてこられてからずっと、この小さなゲージの中に一人で生活しているの。
周りに同じゲージがいっぱいあるけど、やっぱり透明な板を通して交流するのと、肌を触れあうのってやっぱりちょっと違って寂しいわ。
私たちの周りにいつもいる人間ってやつは、真っ白の服(私の真似をしているのかしら)と目に水中眼鏡みたいなやつをして、忙しそうにうろうろしているわ。
ここは窓一つでも有れば救いだと思うくらいくらくて辛気くさい部屋。
もう、ほんと嫌になってしまう。
そして人間って動物が考えていることってよくわかんないけど、(だいたい生き物って自分を生かして子孫を作るために生きているんじゃないのかしら)どうも私は注射でぶすっとさされた何かを観察するために居るみたい。
はじめは痛いとかだるいとか気持ち悪いとかなにもなかった。
だけど最近はいろんなところが痛いし、息も荒くて苦しいの。
でも私だけじゃなくて隣のゲージもその隣のゲージもそうみたいだからしょうがないのね。
苦しいのは最初から解っていたし、有る程度覚悟していたわ。
でもこんなに可愛くこの世に生まれた私が、世界になにも生きていた証を残せないで消えちゃうなんてあんまりだと思わない?
この話をずっと隣のゲージの男の子に話したら、体調が悪そうにこう答えたの。
“だって僕たちうさぎだぜ?それに実験動物の。そんなこと考えるだけ無駄だって”
いつもは私の話を楽しそうに聞いてくれる彼だったからこんな私でもちょっと傷ついちゃった。
彼の言うようにそんなことまた夢の夢なのかな。
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