深淵
 その敷地に足を一歩踏み入れるなり、キョウスケは辺りを見回した。                            
 池はすぐ目の前にあるというのに、人の姿は見当たらなかった。                              
 時間は約束の五分前。                         

 キョウスケはだからこそ周囲を見回して注意を払った。                                  

 おそらく二人の異常者は池が見える場所で息を潜めているに違いない。                           

 そんなところに警戒もせずに踏み込む勇気を、キョウスケは持ち合わせていなかった。                                

 しかしこのまま警戒をして、動かないわけにはいかない。
< 35 / 175 >

この作品をシェア

pagetop