深淵
 ずいぶん女々しい声だな・・苛々する。                              

 キョウスケはそう思いつつも「えぇ」との返答と共に振り返った。                                         
 話しかけてきた声の持ち主は、顔はキャップで隠されていて見えなかったが、小柄で細い男だった。                          

「よかった。時間通りだね」                                   

 その小柄の男はそう言って、少し笑い声をあげた。                        
「もう一人は?」                            
「今、来るよ」                             

 その途端、小柄の男の背後から黒く大きい人影が、力強い足音共に近づいてきた。
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