深淵
「早くしてもらえないか」                        
 大柄の男は来るなり小柄の男にそう言った。                           
 苛々しているような声で、体を小刻みに揺らしていた。                                  

 風が吹き雲が流れると、月が夜空に顔を出した。                         

 月の光が二人を照らすと、キョウスケは思わず目を見開いた。                               

 小柄の男には変わった様子はなかったが、大柄の男の顔には血液がついていた。                                   

「何を・・しているんです?」                                  

 キョウスケが静かに訊ねると、小柄の男は肩を揺らして笑った。
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