腐ったこの世界で


イリスが持ってきてくれたスープをゆっくり飲む。伯爵は今日の授業を全て取り止めにしてくれた。

「大丈夫なのに……」

思わず膨れれば、伯爵が笑ってあたしの頭を撫でる。

「無理してはいけないよ。週末にはリヨン子爵家の舞踏会があるんだし」

…………………。

「え?」
「あれ、言ってなかったかな?」

そうやって首を傾げるけどあたしには分かってる。絶対に確信犯だ。もっと前に予定は組まれていたに違いない。
なんてことだ…。またあの集まりに行くなんて!!

「なんで!? 一回だけじゃなかったの?」
「せっかくダンスも上手くなったのにもったいないじゃないか。大丈夫。僕も一緒に行くから」

いやいやいや。そうじゃないから。あたしは昨日の舞踏会だけのつもりで今まで頑張ってきたんだから。
そう言ったら明らかに不満そうな顔。だってあたしは奴隷出身なんだよ。舞踏会に行ったら、他の人が不愉快になる。

「出自にこだわるなんて愚か者のすることだ。君の価値はそんなものでは決まらない」

はっきりと言われた一言に、胸が震えた。思わずまじまじと伯爵を見上げてしまう。
そんな風に考えたことなかった。だってあたしが奴隷だったってことは変わらない。それは見下されることだってことも。

「確かに君は奴隷だった。その事実を変えることはできない」
「っ、」
「でも、だからなんだと言うんだ? そんなものは一個の側面でしかない。君には君にしかない素敵なところがたくさんある」

その言葉にあたしは何も言えなくなった。


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