腐ったこの世界で


人買いは突如現れた大口顧客に戸惑ったようだったが、具体的な金額を聞いた途端、瞬時に頭の中を切り替えたようだった。値踏みするように伯爵を見て、意味ありげに微笑む。

「二倍、払ってくださるんですか?」

人買いの問いに伯爵が頷けば、変態男が「ふざけるな!」と割り込む。人買いはそれを見て渋い顔をした。こいつ、伯爵に乗り替えようとしてるな。

「私の方が先だったではないか!」
「ですが私ども商売ですし…。やはり支払い金額が高い方に…」

人買いの薄情な言葉に変態男は顔を真っ赤にさせたの人買いのしたたかさにあたしも脱力する。まぁ、こんな性格だから奴隷売買なんかやってんだろうけど。
変態男は人買いに散々食って掛かり、人買いは辟易した様子でそれに応対している。それを黙っていた伯爵もさすがに苛立ったのか、二人の会話に割り込んできた。

「分かった。三倍だそう」

そしてさらに大きな爆弾を二人に向かって投下する。二人は驚きのあまり、固まった。もちろんあたしも。
一番最初に我に返ったのは人買いだった。さすがというか、何というか。

「う、売った!!」

たぶん無意識の叫びだったんだろう。頬が興奮で上気している。隣で変態男が馬鹿みたいに口をパクパクさせていた。

「良かった。さっそく彼女を檻から出してくれるかい?」

伯爵の言葉に、人買いは飛ぶように鍵を取りに行った。


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