腐ったこの世界で


一度降りた伯爵があたしを抱えて再び出てきたとき、外で出迎えていた侍女や下男のみなさんが驚いたように目を見開いていた。
あぁ…。皆さまの視線が痛い。小汚い小娘がなんでこんなとこに居るんだ、って視線だ。

「おろしてください…」
「遠慮しなくていいよ」

泣きそうな声で言ったのに、伯爵はまったく降ろす気はないらしい。
遠慮じゃない! どうして分からないんだ! 頭をかきむしって叫びたいのに、抱き上げられてるからそれもできない。
針の筵みたいな視線に耐えながら屋敷に入れば、さっきよりも鋭い視線があたしに突き刺さった。

「っ、」
「睨むなよ、グレイグ」

伯爵の言葉にグレイグと呼ばれた人は視線をわずかに下げる。格好からしてたぶん、この家の執事だろう。っていうか確実に嫌われてるわよね、あたし。
執事に嫌われるって…。あたし、この屋敷でやっていけるのかしら。この家を統括している執事に嫌われるということは、仕事にも影響が出ると思うし。
…何をやらされるのか、まだ分かんないけど。

「……旦那さま、そちらは?」
「買った」
「………見に行くだけではなかったのですか」
「事情がある。すぐに湯浴みの準備を」

執事さんはしばらく伯爵を見ていたが、目礼をして去っていった。


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