腐ったこの世界で


気まずい雰囲気が室内に流れる。伯爵はこの雰囲気にまったく気づいていないようだが。やがて侍女のみなさんが部屋にやってくると、有無を言わさずあたしを部屋から引きずり出した。

「ちょっと…!」

焦ったあたしは慌てて伯爵に助けを求めるけど、当の伯爵は優雅に紅茶なんかを飲んでいた。
ちょっ、ホントに怖い! なんかこの人たち殺気立ってるよ!?
あたしの不安が分かったのかそうじゃないのか、とにかく伯爵は紅茶片手にあたしを見送った。「大丈夫だよ」と言って。
侍女のみなさんはあたしを小部屋に連れ込むと、隙間なくあたしを囲んだ。前方に三人。後ろには壁。……逃げ道がない。

「旦那さまから丁寧に扱うように、と申しつかっています」
「お召し物をお脱ぎください」

事務的にそれだけ言うと侍女のみなさんはあたしの服を剥ぎ取りにかかる。あたしは抵抗するが、侍女のみなさんは強かった。
服を剥かれたあたしは、侍女のみなさんによって湯船に押し込まれる。そして侍女のみなさんはあたしの全身を磨き始めた。

「あの…自分でできますから…」

遠慮がちにそう声をかけたけど「旦那さまに言われてますから」の一言で片付けられてしまう。
痩せて艶のない自分の肌。歳の割りに貧相な体つきなのはわかっていたが、それでも他人に見られるのは恥ずかしかった。
……侍女のみなさんは気にせずに仕事に徹していたけれど。


< 18 / 117 >

この作品をシェア

pagetop