腐ったこの世界で


ふわふわとした食べ物にクリームと果物が乗っている。思わず伯爵を見れば「食べてごらん」と言われた。
恐る恐るそれをかじってみる。途端に甘い味が口いっぱいに広がった。すごく美味しい! 思わず夢中になって食べれば、伯爵が楽しそうに笑った。

「気に入ったみたいだね」
「初めて食べたわ」

あたしは昨日、伯爵家で食べた食事を抜けば固いパンに生水を食べてた。まさに天と地ほどの違い。
伯爵はあたしがお菓子を全部食べるのを待ってから馬車を呼んだ。買ったものは服以外、もう屋敷に届いているらしい。
舗装された道を抜け、あたしたちは伯爵邸へと帰宅する。帰ったあたしは昨日とは違う部屋に案内された。

「どこ行くの?」
「君の部屋だよ」

昨日よりも広く、だけど落ち着いた部屋。置いてある家具はさっき買ったものばかりだ。今も隣から運び込まれてるし。
ベッドや机、ソファーなどが置かれ床には暖かそうな絨毯が敷かれている。さすがに衣装部屋に服はまだ入ってないけど。

「これ……」
「気に入った?」

嬉しそうな伯爵に面食らう。ここで気に入らないっていったら総入れ替えでもするのだろうか。……するんだろうなぁ。
頷いたら伯爵も満足そう。あたしは改めて部屋の中を見回す。落ち着いた雰囲気はとても気に入った。広すぎる気がしないでもないけど。
本棚には知らない本が大量に入っていた。あたしは自分の名前を書くくらいしかできないので、読めないけど。

「明日から家庭教師が来るから」
「かていきょうし?」
「勉強を教えてくれる先生だよ。それからマナー講師とダンスの先生と…」

ちょっと待て! いつの間にそんな話になったの?
あたしの戸惑いが分かったのか、伯爵がニヤリとわらう。

「君はこの屋敷で何をするのか、と聞いたね」
「まぁ…」
「とりあえずは勉強を。明日から毎日教師が来るからね」


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