腐ったこの世界で


その日は朝からクレアやイリスがそわそわしていた。それになぜかにまにましてる。あたしにはその理由がさっぱり分かんなかった。

「ねぇ、何かあるの?」

聞いてもクレアもイリスも「ふふふ」と笑って教えてくれない。他の使用人も教えてくれなかった。謎だ。
今日は午前の講義もなくなった。伯爵も仕事に行かないみたいだし。また誰かお客さんでも来るのかしら。

「上の空だね。まだ眠いのかな?」
「…意地悪ですね」

一緒に朝食を食べていた伯爵がニヤリと笑う。あたしが、みんなが楽しそうな理由が分からなくて不満なのを知ってて聞いてるんだわ。
伯爵の方が眠いんじゃないかしら。伯爵が起きてからまだ30分も経ってない。それでも最近の伯爵に比べれば早起きだ。

「朝からみんなそわそわしてて…何かあるんですか?」

思いきって伯爵に聞いてみたのに伯爵も他のみんなみたいに笑うだけだった。くそう。伯爵も敵か。
あたしだけ仲間はずれみたい。みんなは知ってるのにあたしだけ知らないなんて。思わず恨みがましい目で伯爵を睨む。

「そんな風に見られたらなんだか心苦しいな」

嘘ばっかり。そんなこと言いながら言うつもりなんてないくせに。その証拠に笑って口を閉じてるし。
あたしは不満と一緒に目の前のサーモンを胃の中に流し込んだ。


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