ブラッディ アリス
「…はい…。……記憶喪失で…、気がついたら…執事専門の養成施設にいました。…そこでは仮の名で呼ばれ……正式な名は、初めて主になった者に名づけてもらえ…と」
親に捨てられた孤児や記憶を失った孤児などが、従者としての職を身につけるべく施設に招かれることは普通のことだった。
幼少時から訓練をすれば、ある程度の人間が務めることのできる『従者』。
その中でもレベルの高い人間が、『執事』として登録できるのである。
「…ふーん……。…じゃあ、私が初めてってわけ?」
アリスはニヤリと笑う。
「……いえ…。……数ヶ月間だけ、ある貴族に仕えていましたが…名をもらえませんでした」
男は少し寂しげに笑うと、ナナリの淹れた紅茶をそっと口に含んだ。
「…たまにいるわよね…そういう奴…。……まぁ…お母様の推薦なら、仕方ないわ。…あなたを雇います」
アリスは『依頼状』を手に持ち立ち上がると、まっすぐに男を見つめた。
「…あなたの名は『ラビット』…」
「……え?…あ……この耳をつけているから…?……これは依頼状と一緒に送られてきて…」
男はアリスの言葉を聞いた途端、焦った様子で頭に着けていた兎耳のカチューシャを外す。
「………ふふふ……違うわ…」
そんな男の行動を見たアリスは、思わず笑みをこぼした。
「……あなたの瞳が……薔薇色だからよ……」
…待ってたの、『うさぎ』さん。
さぁ、案内してちょうだい。
退屈だなんて思わせないほど、薔薇色の世界。
どんな血が流れたって構わない…一族をかけた『復讐劇』。